多層構築時空間力学ついての小説的実践学

ファンタジー、SF、狼男、獣人が活躍する小説を書いてるブログです.

黄昏のオオカミ(27)終の地へ

2066年2月14日午前3時4分。



 東京都心。



 そこは周りの区画のように、暗闇に沈んだ廃虚は存在しなかった。



 びっしりと辺りを覆う紅い肉のツタ。



 ビルとビルの間を滴る血肉が糸を引いてまるで蛇か蜘蛛の糸の如く走り、街の景色を覆い隠していた。



 肉の触手は辺りを巡回する白いエルザにも絡まり、巨大な肉瘤が装甲を破いて巨人の身体にこびり付き、周囲の紅い肉の触手が糸を引いて操り人形のように肉腫に覆われた機械を動かす。



 そしてそれら紅い肉の蔦は繋がり集まるままに、巨大なドーム状の肉塊へと重なりあい、らせん状に伸びていた。



 巨大なビルを添え木にして、紅い光の球体へと伸びていた。



 紅い球体が脈打つたびに、世界が『浸食』される。



 その脈動は世界崩壊のタイムリミット。



 東京都心、都庁ビル。



 紅い球体を頭上に浮かべ、無数の紅い肉の蔦を纏うままに、巨大な紅い螺旋の塔が暗闇に聳え立っていた。



 雲は黒く分厚く、光一つ入らない闇が世界に立ちこめる―――





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追憶:2056年―――夕日に誘われるように

 約半日掛かった。 

 山を徒歩で越えて服はボロボロになり、靴もいつの間にか、というより最初から無くしていて、今 は長い爪と長い体毛が生えていた。 
 
僕は、街にやってきた。 

 あの紅い球体のある大きなビル街にやってきた。

 「……」 

 そこには異様な光景が広がっていた。 

 パン、パン、パン。 
 
 いろんなところで破裂音が聞こえてくる。耳は本当に最近よくなった、鼻もよく利いて、漂う血の 匂いでもげそうだった。 

 音の方向を確かめてみれば、そこには風船のように紅く血走って膨らむ肉瘤があった。 

 その大きな肉瘤を背負って歩く、人の姿があった。 

 やがて大きな肉瘤は背負う人を飲み込んで膨らんで破裂して、中から紅い糸を引いて触手が伸びて いく。 

 紅い茨のような触手は周囲のビルに絡み、電柱に絡み、地面を這い、大蛇のように大通りを走って いった。


 なんとなく、わかった。 


 頭上を覆い、街を飲み込んでいくこの紅い肉の茨は、人のなれの果て何だと。 

 後に名前をつけられる『異人』の果てなのだと―――

 「……美沙……」

 僕は、好きな人の名前を呟いた。

 呟きながら、紅い肉筋に絡まれ、暗闇に沈みつつある夕闇の街を歩いていく。 

 グチャリ……

 足元に広がる肉の触手を踏みながら、爪が肉片を飛び散らせる。

 頬を掠めては落ちる夕焼けが遮られる。

 不意に見上げれば、また夕日が眼に入った。

 今日も、真っ赤な夕日だった。

「……美沙」

 あの夕陽を見るたびに、美沙の姿が思い返される。 

 彼女の事が―――

「……」 

 涙が自然と零れた。 

 悲しくはなかったけど、自然と零れて、僕は引き寄せられるように、周りの触手と同じように脚を 進めた。

 そして紅い肉の触手が集まる、巨大な光の球体の下にそびえる大きなビルへと歩いていく。

 紅い光に引き寄せられ、僕はこの道を歩いていく―――


黄昏のオオカミ(26) 夜明けをつかむ者





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